2回目のデートを前に、僕には反省があった。
初デートのランチでは、僕9:あーちゃん1。ほぼ僕の独演会だったのである。
それでも「また会いたい」と言ってくれた彼女と、2回目のデート。
だから今回は、密かに作戦を立てた。
――今日はあーちゃんの話を聞く。目標は僕5:あーちゃん5。いや、できれば僕4でもいい。
ホテルのラウンジでカクテルを飲み、夜は二人でクルーズへ。前回とは少し違う、ゆっくりした時間が始まった。
前回の初デート後編はこちら|恋人つなぎから「また会いたい」まで
カクテルを前に、今日は聞き役になる
ラウンジの席について、まずはひと息。
目の前にはカクテル。そして、2回目のデートで向かい合うあーちゃん。
初対面の緊張でしゃべり倒した前回とは違う。今日は落ち着いている。……少なくとも、本人はそのつもりだ。
僕が聞きたかったのは、彼女の恋愛観だった。
お相手を好きになるまでの時間について、思い切って聞いてみた。
聞き役になると決めたくせに、質問は初手から核心へ。聞き上手と質問攻めは、紙一重である。
あーちゃんは、誰かを急に好きになるというより、時間をかけて少しずつ気持ちが育つタイプだという。
なるほど。じわじわ、か。
初デートで一人勝手に舞い上がった僕は、そこでちょっとブレーキを踏んだ。
僕の気持ちだけ先に走っても、彼女の歩幅とは合わない。
――僕はまだ、彼女を知る入り口に立ったばかりなのだ。
彼女の「男前」な一面
ところが、次の話で僕が抱いていた「守ってあげたい女の子」のイメージはひっくり返った。
失恋した友人を元気づけようと飲み会を開いたあーちゃん。そこで男性たちに絡まれた友人を、彼女がかばったという。
自分が前に出て、友人を守ったのだ。
おいおい。
守ってあげたいと思っていた僕より、彼女のほうがよっぽど頼もしい。
無理して飲むのは心配だ。でも、友人を放っておけなかった彼女の気持ちには、胸を打たれた。
――あーちゃん、意外と男前やん。
かわいいだけじゃない。前回のデートでは見えなかった一面を、また一つ知った。
過去の恋の話を聞いて
昔の恋愛の話にもなった。
若いころの初恋。うまくいかなかった交際。相手の事情に振り回された経験。
いろいろあったんだな、と思う。
話してくれたことはうれしい。でも、それは僕が勝手に公開していい話ではない。
ここに書くのは、彼女が今、好きになるまでに時間がかかると言ったこと。そして、その言葉を聞いて僕が少し落ち着いたことだけにしておく。
レンタル彼女とのデートで、僕だけが勝手に先へ走っても仕方ない。
あーちゃんのペースがある。
僕には僕の、楽しいと思う気持ちがある。
それで、今夜は十分だ。
夜景クルーズへ
ラウンジを出て、次は夜のクルーズ。
デッキへ上がると、風が強い。
それでも、そんなことは気にならなかった。二人で夜景を見ているうちに、会話が途切れる。
沈黙が、思ったより長い。
前回の僕なら、何か話さなきゃと慌てていたはずだ。今日は少しだけ違う。この時間も悪くない。
とはいえ、ただ黙って終わるのも僕らしくない。
僕がリードして、二人でお決まりのタイタニックポーズ。
――やってしまった、55歳。
彼女の腰に手を添えた瞬間、思わず心の中で「細っ!」。夜景を見に来たはずが、またしても意識はあーちゃんに向いている。
初デートは魚よりあーちゃん。2回目は夜景よりあーちゃん。観光の楽しみ方として、相変わらず何かを間違えている。
彼女の「じわじわ」という言葉を思い出す。急いで答えを出さなくても、今この時間が楽しい。
しゃべりすぎた一回目。
聞きたくて、少し聞きすぎたかもしれない二回目。
……加減を覚えるのは、まだこれからだな。
そして、次の約束
僕は、気になっている温泉郷の話をした。
「日帰りだと、とんぼ返りだね」
返ってきた言葉は、僕の想像を軽く飛び越えた。
「泊まりで行こう!」
えっ、そっちから?
心の中でガッツポーズする55歳。さっき「じわじわ」と聞いたばかりなのに、もう舞い上がっている。
ただ、約束は約束。実際の予定や過ごし方は、彼女の希望とサービスのルールを確認しながら決めたい。
恋愛観を聞いたから、彼女の気持ちが全部分かったわけじゃない。
それでも、初デートより少しだけ、彼女を知れた気がする。
今回の作戦は成功したのか。少なくとも、僕9:あーちゃん1ではなかったはずだ。次はもっと彼女の話を聞けるだろうか。
夜景よりも、僕の頭に残ったのは「泊まりで行こう!」のひと言だった。
55歳。
人生を上書きする2回目のデート。次のページには、温泉郷が待っている――かもしれない。

