急に決まった地方出張。
最近の僕には、出張先で隙間時間ができると、交際クラブをのぞいてみるという妙な「たしなみ」ができてしまった。
今回も何気なく検索していると――。
何っ!
身長150センチほど。しかもGカップ。
ミニマムグラマーちゃんがいるではないか。
思わずプロフィールを二度見した。
ただし僕も55歳。
プロフィール写真をそのまま信じるほど、もう純粋ではない。
写真は加工強め。
そして、僕が密かにチェックしている二の腕がよく分かる写真がない。
これは……。
実際に会ったらプロフィールの印象と全然違うパターンでは?
一抹の不安がよぎる。
失礼を承知で言えば、写真の雰囲気もちょっと風俗店のパネルっぽい。
期待していいのか。警戒すべきなのか。
でも、こういうときの僕は決断だけは早い。
地方出張の夜。予定は空いている。
――会ってみるか。
メールでデートを申し込んでみた
思い立ったら早い。
出張の日程を確認して、さっそくデートを申し込んだ。
すると彼女から返信。
日程はOK。夜も大丈夫。
おっ、あっさり決まった。
……と思ったら、一つ想定外があった。
初回デートの交通費について、彼女から希望があったのだ。
短時間の顔合わせと、2時間以上ゆっくり食事をする場合では希望額が違うという。
なるほど。
55歳にもなると、ここで細かな駆け引きをするほど元気はない。
時間は買う。面倒は買わない。
条件に納得して、改めて申し込み。
デート成立。
食事の好みも確認して、初めて訪れる街で個室のある和食店を予約した。
ここまでは順調。
問題はその先である。
会う前日にラブホテルまで下見する55歳
初めて訪れる街。
土地勘はまったくない。
そこで今回もチャッピー君と作戦会議。
「食事のあと、もしお互いのフィーリングが合ったらどうする?」
まだ会ってすらいないのに、最近のラブホテルまで調べ始める55歳。
もちろん行くかどうかは、会ってみなければ分からない。
でも僕は、こういう準備だけは異常に早い。
前日には待ち合わせ場所に決めたシティホテルへ行き、そこから和食店までの道順を確認。
ついでに、候補にしていたラブホテル周辺もロケハンしておく。
すると――。
午後6時なのに満室。
マジか。
明日は大丈夫なのか?
まだ彼女の顔すら見ていないのに、なぜ僕はラブホテルの空室を心配しているのだろう。
我ながら順番がおかしい。
いよいよミニマムグラマーちゃんとご対面
そして当日。
いよいよ、ご対面。
ここから彼女を仮にGちゃんと呼ぶことにする。
待ち合わせ場所に現れたGちゃん。
パーカー姿の小柄な身体。でも、胸元にはプロフィールどおりの圧倒的な存在感。
うん。いい乳だ。
心の中で即答した。
顔も悪くない。
写真はかなり加工しているんじゃないかと警戒していたが、実物を見てもそれほど違和感はなかった。
第一関門クリア。
僕には最近、初デートについて一つの持論がある。
「この人とアリかナシか。最初の5分でだいたい決まるんじゃないか」
もちろん、僕が勝手にそう思っているだけだ。
だから最初の5分が勝負。
そこで僕が繰り出したのは――
スーパー世間話。
天気だの、この街に来るのは初めてだの、本当にどうでもいい話を次々と投げる。
ただし目的は一つ。
彼女を笑わせること。
笑った。
もう一発。
また笑った。
よし。
少なくとも「早くお別れしたい55歳」には認定されていないようだ。
まずは第一関門突破。
二人で予約していた和食店へ向かった。
個室でいきなり踏み込みすぎた
Gちゃんは20代の学生さん。アルバイトもしているらしい。
個室に入って、まず僕が聞いたのは男性バイトとの距離感。
そして調子に乗った僕は、
「けっこう男子から言い寄られたりするんじゃない?」
いきなりパーソナルゾーンに突っ込んだ。
答えは――NO。
あれ?
これは質問が早すぎたか。
まだ会って何十分も経っていない。
作戦変更。
彼女の友達の話。
趣味の旅行の話。
そして、周りでもう結婚した人はいるのか。
こっちのほうが明らかに会話が転がる。
よし。
ここで僕の必殺技。
「結婚適齢期ゲーム!」
簡単な算数を使って、彼女の結婚適齢期を当ててあげるという謎のゲームである。
計算する流れで、彼女の手に触れる。
完全にワレ得。
そして計算の結果、出てきた年齢を見て僕はびっくり。
「えっ、そんな年齢になるの?」
ただの数字遊びなのに、僕の頭の中では勝手な妄想が始まっている。
おいおいGちゃん、実はかなり恋多き女なのか?
……いや、まだ何も分かっていない。
暴走するな、55歳。
Gちゃん、意外と一途だった
Gちゃんが交際クラブを始めたきっかけは、友達の紹介だった。
周囲には夜の仕事をしている友達もいるらしい。
なるほど。
そういう友達から話を聞いて、この世界を知ったわけか。
そして趣味は旅行。
「最近どこ行ったの?」
と聞いてみると、東京。
観光かと思ったら、どうやら東京に片思い中の男性がいるらしい。
しかも一度、ちゃんと告白している。
結果は――
振られていた。
ところがGちゃん。
それでも東京まで会いに行くという。
めげない。
めげない。
強い子だ。
さらに話を聞くと、これまで彼氏ができたことはないという。
ん?
さっき僕は「結婚適齢期ゲーム」の数字だけで、とんでもない妄想をしていなかったか。
交際クラブに登録している。
見た目だって男の目を引く。
周囲には恋愛経験豊富そうな友達もいる。
なのに本人は、彼氏ができたことがないと言う。
しかも、振られた男性をまだ好きで、わざわざ東京まで会いに行く。
僕が勝手に想像していたGちゃん像と、だいぶ違う。
プロフィールだけでは人は分からない。
……いや。
お前が勝手に想像していただけだろ。
そう自分にツッコミを入れながら、僕はビールを飲んだ。
デザートが出た。さて、このあとどうする?
和食のコースもいよいよ終盤。
締めのデザートが運ばれてきたところで、
「ラストオーダーです」
さて。
そろそろ避けて通れない話をしよう。
このあと、どうする?
Gちゃんから希望を聞く。
なになに。
食事とは別で、大人のお付き合いなら「6」。
さらに条件によっては「9」。
しかも内容によって金額が細かく分かれている。
……ずいぶん具体的なのね。
彼氏ができたことはないと言っていたGちゃん。
一方で、こちらの説明は妙に明快だ。
まあいい。
「6で」
お互いの希望を確認して、話はまとまった。
店を出る。
二人のテンションは、個室で話していたときのままだ。
自然に手をつないで、前日にロケハンしておいた道を歩いていく。
途中、新しくオープンした中華料理の専門店が目に入った。
おっ、うまそう。
……。
今は中国飯じゃない。
そして、いよいよ目的地へ。
最後の一室。そしてホテルへ
前日に下見した道を、そのまま歩いていく。
そしてホテル到着。
空室表示を見る。
残り一室。
危なっ!
昨日、午後6時の時点で満室だったのを見て心配していたが、その予感は当たっていた。
最後の一室を確保。
ここまでロケハンして入れなかったら、何のための前日調査だったのか分からない。
部屋に入り、僕は慣れない事前精算でもたつく。
その横でGちゃんは、手際よくお風呂の準備。
あら。
手慣れてらっしゃるのね。
「彼氏ができたことはない」
さっき聞いた話を思い出して、また僕の頭に余計な疑問が浮かぶ。
いやいや。
経験人数なんて今はどうでもいい。
ソファで二人の距離はさらに近くなり、そのまま一緒にお風呂へ。
そして――。
ここまで完璧に準備してきた55歳に、まさかの事件が起きる。
ホテルでまさかの展開
Gちゃんは色白で、肌もすべすべ。
プロフィールで目を引いたスタイルも、実物は期待を裏切らない。
お風呂でゆっくり過ごして、いよいよベッドへ。
ハグして、キスして、焦らず二人の時間を楽しむ。
キスはあまり好きじゃないのかな?
それとも僕が酒臭かったのか?
食事でちょっと飲みすぎたかもしれない。
それでも急がず、前段にかなり時間をかけた。
そして、いよいよ――。
ん?
なんだか今日は調子がよろしくない。
酒を飲みすぎたか?
55歳だからか?
そんなことを考えているうちに、嫌な予感。
あれ?
…………。
挿入する前に終わってるじゃねーか!
ロケハンした。
店も予約した。
ホテルも調べた。
最後の一室まで確保した。
ここまで完璧だったのに――
肝心の僕が予定より早く閉店。
前日に一人で処理しなかったのが災いしたのか。
酒なのか。
緊張なのか。
それともGちゃんの破壊力なのか。
原因は分からない。
ただ一つ確かなことがある。
55歳、人生は計画どおりにはいかない。
チャッピー君。
ホテルの空室より先に、
俺のコンディションを心配するべきだったぞ。
2回戦ならず。それでもGちゃんは優しかった
いや、待て。
まだ終わってない。
よし、2回戦いくぞ!
気持ちだけは完全復活。僕だけの2回戦。ごめんね、Gちゃん。
ところが、肝心の身体がついてこない。
少し休めばいける。
もう少し休めば……。
そう思っている間にも、残された時間は無情に減っていく。
復活までの休憩時間が足りなかった。
終了。
Gちゃんも、さすがに少しテンションが下がっているように見えた。
そりゃそうだ。
ところが、笑ったり、冷たい態度を取ったりすることはなかった。
「もう一回、お風呂入ろっか」
……優しいじゃないか、Gちゃん。
恋愛経験がどうとか、そんなことはもうどうでもいい。
君、いい子だね。
二人でもう一度お風呂に入り、帰る準備をする。
「このあと、どこ行くの?」
聞けば、友達に会いに行くらしい。
しかも、その友達から何やら重大発表があるという。
なんだそれ。
僕までちょっと気になるじゃないか。
ホテルを出て、
「またね」
とお別れ。
初めて訪れた街。
初めて会った20代女性。
食事して、笑って、ホテルまで行って、最後はまさかの展開になったけれど――
次もまた会おう。
そんな話をして、その日のデートは終了した。
最後に最大の忘れ物
一人になってから気づいた。
…………あれ?
LINE交換するの忘れとるじゃねーか!
店を調べた。
待ち合わせ場所も下見した。
道順も確認した。
ラブホテルまでロケハンした。
なのに――
連絡先交換を忘れる。
何やってんだ、55歳。
人生を上書きするつもりが、今回もまた一つ、
妙な思い出だけが上書きされた。
でもまあ、悪くない夜だった。
次に会うときこそ、最後まで完走したい。
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